2019年1月16日水曜日

クープランの墓『 プレリュード』/ 9th,11th,13thの和音について



ここのところ

Maurice Ravel(ラヴェル)
のピアノ組曲、

クープランの墓の1曲目となる

『プレリュード』

の楽譜を
再び引っ張り出して来て弾いてます。



Ravelの新古典主義の中の楽曲の一つでもある
『クープランの墓』は、

古典派の作曲家である
「クープラン」
のタイトルにちなんで

17世紀の
フランス古典派の楽曲の様に
形式が
簡明で堅固です。



『プレリュード』
だけ見ても
音符の動きに無駄がなく
規則性を持った転調が
色彩やかです。

モチーフ
厳格に各フレーズにはめ込まれていて
精巧なモザイク画を見ている様です。

様式美を味わいながら
何度も弾いてみたくなる曲集です。



クープランの墓
『プレリュード』
12/16拍子(複合拍子)
の無窮動曲です。

Vif(仏:活き活きと)
と曲頭に指示がありますが、

Perlemuter版だと
Pas trop vite(仏:速すぎずに)
と、ただし書きがあります。

https://youtu.be/nQWY4aBIS58
(Perlemuter1955年の録音。
 明瞭でかつ抒情性もあり
 曲の構造が見えて来る名演です!)



【Tentionnote(テンションノート)について】


この組曲は
1914年~1917年にかけて作曲され、
1918年デュラン社から出版されました。



この時点でRavel

9thはもちろんの事、
11th,13thの音を

転位音ではなく
和音の構成音の一部として

意識して楽曲に用いています。


これら
9th,11th,13th,
の和音構成音は

ジャズ・ポップス理論では
テンションノート
と呼ばれ

この3つの音をまとめて
「Upper structure triad
(アッパーストラクチャートライアド)」
と呼びます。



長三和音の場合は

譜例の様に
第3音(この場合は”ミ”の音)
とのぶつかりを避ける為に
11thの音を半音上げます。

この場合
この音を
♯11th(シャープイレヴンス)
と呼びます。



これは、
自然倍音と照らし合わせた場合もそうなります。

”C”
を基音とした場合、
”Fis"
第11番目倍音となります。




1899年に作曲された
『亡き王女の為のパヴァーヌ』には

既に
テンションノートを含んだ
和音の使い方がなされています。





この様に
同じ旋律が
繰り返し現れる度に
ハーモニーが変わり、

しかも
三和音七の和音だけではなく

テンションノートが使われることによって
色彩豊かな楽曲に聴こえます。

同じ旋律を繰り返す度に
色使いが変わるのです!



「フランス古典をもう一度見直そう」
という思いもある

クープランの墓からは、

中世の4、5度
のオルガヌムの時代から
3度、7度、9度・・・


少しずつ長い年月を経て
人間の耳が
倍音に馴染んで行く
又は聴き取って受け入れて行く

ヨーロッパの音楽の
歴史を感じ取れますね。



【『プレリュード』でのテンションノートの使われ方】


『プレリュード』の中での
9th,11th,13th の使われ方を
少しだけご紹介しますと、

まずは
53小節目です。


”C”音を根音とする
ドミナント7th(属七)
の和音の上に

9th
”D”音と
11th
”Fis”音が
乗っています。

小節の最後に
13th
”A”
が付け足しであります。

ほんのちょっとの様ですが、
この音”A”
があるのと無いのとでは
大きな違いがあります。

料理のスパイスの様です!



小節前半の”Fis”

小節後半の”G”
に解決する
転位音(非和声音)
と考えるのが一般的でしょう。

ただ小節の半分以上を
この響きが覆(おお)っているので
和声音であるテンションノート
にも聴こえて来ます。


これらの音を音階にすると
ジャズ理論で言う
「リディアン7thスケール」
という音階になります。

このスケールはジャズの即興演奏の中で
ドミナントの和音上でよく用いられます。

あとは
61小節目で
9th13th
クロマティックな転調の中で
巧く使われています。

ここでのテンションノート
明らかに和声音として意識して
用いられています。


分かり易く和音に直すと
こんな感じです。


”Ais"-”A"、

”Dis"-”D”
と半音階で連結されています。

また
”Ais”-”B”
と異名同音でのつながりがあるので
転調が滑らかに聴こえます。



この曲では
テンションノートを用いた
色鮮やかな転調が
規則性を持って並列されていて

弾いたり聴いたりすることによって
精神状態も整理されていく気がします。
(これはあくまでも主観ですが、、、)



【後記】


Ravel
は後に演奏旅行で北米に渡り

その後の作品に
黒人霊歌やジャズからの影響を色濃く受けた

『ピアノ協奏曲』

『ヴァイオリンソナタ』などを
作曲します。



面白いことに

渡米する以前のRavelの音楽が
後のアメリカのジャズ界に
大きな影響を与え
もともと
娯楽のための音楽だったジャズが
芸術として高められ
洗練されて行きます。

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