今指導している女声コーラスで
信長貴富さん作曲の
『うたうたう』という
女声合唱曲集の中から
2曲練習しています。
その中から1曲、
”空の端っこ”
という曲の
ピアノパートの
和音分析を
してみようと思います。
【イントロ】
まず
イントロ部分ですが、
この曲の主調である
F-durの
Ⅱ(7)の和音
から始まります。
始まりの4小節では
経過的な和音
以外は
全て
F-durのⅡ(7)の和音
で書かれています。
1小節目の2拍目のウラの
最高音の
”C"の音
は
イントロの4小節間を
通して
高音域、中音域、低音域
と全ての音域で
ペダルトーン
として流れています。
この
”C"の音
は、
Ⅱ(7)のテンションノートである
11thの音
として捉えることも出来ます。
11thの音は
根音と
完全4度で重なるので
その響きが
少し硬くシャープな響きがします。
この様に
短三和音での
11thの和音の響きは
洗練された
都会的な印象を受けます。
そしてその直後に
主和音
によって
ラテンのリズムが刻まれて
歌の導入が始まります。
【裏コード】
”裏コード”なんて聞くと
「何かヤバいシロ物で近づかない方がいいのデハ!?」
と思う方もいると思いますが(いないか(^^; )、
代理コードの1つです。
この曲では
14小節目の3-4拍目
に使われている和音が
”裏コード”に当たります。
では
”裏コード”とは何でしょうか・・・?
上の楽譜の
点線に囲われた箇所では
本来なら
d-mollの
ドミナントのA7
が使われ
A7-Dm
というコード進行になるのが
理論上の定石です。
しかし
この曲では
A7
に代わって
異名同音(D♭→C♯)変換を使って
E♭7
という代理コードが用いられています。
つまり
E♭7-Dm
というコード進行になっているのです。
この
裏の関係の
2つの和音の
根音
だけを取り出してみると
”A”と”E♭”
です。
この2つの根音の音程関係は
減5度です。
この様に
同じ機能(ドミナント⇔ドミナント など)の和音同士の
根音の音程関係が
減5度
もしくは
増4度になる
代理コードの事を
”裏コード”
と呼びます。
なぜ”裏”と言うのか
というのは
5度圏の
円の図と関係あるのですが、
詳しくはまた別の機会に
説明したいと思います。
裏コードの関係の
2つの和音の違いは
実際に弾いて音にしてみると
すぐ分かります。
Em7ーA7ーDm
(d-mollなので
本来Em7♭5が使われるところで
Em7を使っているのがこの作曲家のセンスだと思います)。
というコード進行は
F-durが主調の
この曲では
その平行短調に当たる
d-moll
による
Ⅱm7ーⅤ7ーⅠ(ツー・ファイブ・ワン)の
ドミナント進行によって
「転調した!」
というしっかりとした実感を抱かせます。
ところが
Em7ーE♭7ーDm
という
裏コードを使った進行は
転調という感覚をあまり抱かせずに
根音の半音階的な進行による
「経過的な和音の流れ」
という感じさせ方をさせます。
加えて言うと
ジャジーな響きがします!
実際ジャズではかなり頻繁に
”裏コード”が
好んで使われます。
【クリシェ(Cliché)】
Aメロを2コーラス歌った後、
39小節目から
Bメロ(中間部)が現れます。
ここからは
この曲の主調の
F-durの
平行短調である
d-moll
でBメロが始まります。
このBメロの
始めの4小節間は
いわゆる
”クリシェ”と呼ばれる音のつながりです。
クリシェ(Cliché)とは
同じ和音が長く続き
単調になる時に
ある一つの声部
もしくは
和音全体の音を
順次進行(増1度か長・短2度)
でつないで
変化させていく
一種のテクニックです。
この曲の
ここでの4小節間は
和音の微妙な変化がありますが
Dmの大きな流れの中で
最低音が半音ずつ下がっていくパターンの
クリシェ
と捉えることが出来ます。
【旋律長音階とリディアン7thスケール】
Bメロの後半、
47-48小節目
で使われている音を
整理して
音階で並べると
F-durの
旋律長音階の下行形
もしくは
E♭から始まる
リディアン7thスケール
の音階となります。
リディアン7thスケール
は
フワフワと宙に浮いた感じで
少し不思議な響きのする音階です!
中間部の最後の2小節では
同主短調の
f-mollからの
借用和音である
Ⅶ♭7の和音
から
主調の
Ⅰの和音
へ続き
再現部の
Aメロに戻ります。
【終結部/ 裏コードとリディアン7thスケール】
Aメロの
3コーラス目の後半部分は
前の2コーラスと比べて
盛り上がりを見せて
66-67小節目では
同主短調の
f-mollからの
借用和音の
Ⅵ♭-Ⅶ♭
から
主調の
Ⅰ(主和音)
へと進み
後奏へと続きます。
後奏の後半部分、
70-71小節目では
ヘミオラで3拍子になったあと、
最期の2つの和音は
ドッペルドミナントである
G7の
裏コードの
D♭7を使って
D♭7ーF
というコード進行になっています。
D♭7
のコードの部分ですが、
右手の音に
”G”音が
11thとして使われていて
ここで使われている音を
音階に直すと
リディアン7thスケール
という音階になります。
【後記】
全体を通して
”空の端っこ”
の
の
和音を分析してきましたが
この曲では
・テンションノート
・ペダルトーン
・裏コード
・クリシェ
・リディアン7thスケール
等と
・テンションノート
・ペダルトーン
・裏コード
・クリシェ
・リディアン7thスケール
等と
ジャズのイディオム
が
かなりふんだんに盛り込まれています。
作曲者の信長氏は
恐らく
ジャズ理論に熟達されているのでは、
と拝察致します。
そして
「こういった分析が 全て演奏に生かされるのか?」
といった疑問には
必ずしも
全面的に
「Yes」
とは言い切れませんが、
作曲者が
どういう思いで
楽曲を組み立てて作曲しているのか?
楽曲の構造の中で
演奏者が
何を大切に表現したらいいのか?
上の2つを踏まえた上で
自分の感性で
どう表現するのか?
といった疑問を
解決する
大きな手掛かりとはなる事は
確かでしょう。
最後まで読んで下さって
ありがとうございました!
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