2019年2月14日木曜日

信長貴富『うたうたう』から”空の端っこ” / 和音分析



今指導している女声コーラスで

信長貴富さん作曲の
『うたうたう』という
女声合唱曲集の中から

2曲練習しています。



その中から1曲、

”空の端っこ”

という曲の

ピアノパートの
和音分析
してみようと思います。



【イントロ】


まず
イントロ部分ですが、

この曲の主調である
F-dur
Ⅱ(7)の和音

から始まります。


始まりの4小節では
経過的な和音
以外は

全て
F-durのⅡ(7)の和音

で書かれています。



1小節目の2拍目のウラ

最高音
”C"の音


イントロの4小節間
通して

高音域、中音域、低音域

と全ての音域で
ペダルトーン
として流れています。



この
”C"の音
は、

Ⅱ(7)テンションノートである

11thの音
として捉えることも出来ます。



11thの音
根音
完全4度で重なるので

その響きが
少し硬くシャープな響きがします。



この様に

短三和音での
11thの和音の響きは

洗練された
都会的な印象を受けます。



そしてその直後に
主和音
によって

ラテンのリズムが刻まれて
歌の導入が始まります。




【裏コード】


”裏コード”なんて聞くと

「何かヤバいシロ物で近づかない方がいいのデハ!?」

と思う方もいると思いますが(いないか(^^; )、

代理コードの1つです。



この曲では

14小節目の3-4拍目
に使われている和音が

”裏コード”に当たります。



では
”裏コード”とは何でしょうか・・・?



上の楽譜の
点線に囲われた箇所では

本来なら
d-moll
ドミナントA7

が使われ

A7-Dm

というコード進行になるのが
理論上の定石です。


      
しかし
この曲では

A7
に代わって

異名同音(D♭→C♯)変換を使って

E♭7
という代理コードが用いられています。



つまり
E♭7-Dm

というコード進行になっているのです。



この
裏の関係の
2つの和音の

根音
だけを取り出してみると

”A””E♭”
です。

この2つの根音音程関係
減5度です。


この様に

同じ機能(ドミナント⇔ドミナント など)の和音同士の
根音の音程関係

減5度
もしくは
増4度になる
代理コードの事を

”裏コード”

と呼びます。



なぜ”裏”と言うのか
というのは

5度圏
円の図と関係あるのですが、

詳しくはまた別の機会に
説明したいと思います。



裏コードの関係の
2つの和音の違いは

実際に弾いて音にしてみると
すぐ分かります。



Em7ーA7ーDm
 (d-mollなので
   本来Em7♭5が使われるところで
  Em7を使っているのがこの作曲家のセンスだと思います)。

というコード進行は

F-dur主調
この曲では

その平行短調に当たる
d-moll
による

Ⅱm7ーⅤ7ーⅠ(ツー・ファイブ・ワン)
ドミナント進行によって

「転調した!」
というしっかりとした実感を抱かせます。




ところが

Em7ーE♭7ーDm

という
裏コードを使った進行は

転調という感覚をあまり抱かせずに

根音の半音階的な進行による
「経過的な和音の流れ」

という感じさせ方をさせます。



加えて言うと
ジャジーな響きがします!

実際ジャズではかなり頻繁に
”裏コード”
好んで使われます。





【クリシェ(Cliché)】


Aメロ2コーラス歌った後、

39小節目から
Bメロ(中間部)が現れます。

ここからは
この曲の主調の

F-dur
平行短調である
d-moll

Bメロが始まります。



このBメロ
始めの4小節間

いわゆる
”クリシェ”と呼ばれる音のつながりです。



クリシェ(Cliché)とは

同じ和音が長く続き
単調になる時に

ある一つの声部
もしくは
和音全体の音

順次進行(増1度か長・短2度)

でつないで
変化させていく
一種のテクニックです。



この曲の
ここでの4小節間
和音の微妙な変化がありますが

Dmの大きな流れの中で

最低音が半音ずつ下がっていくパターンの
クリシェ

と捉えることが出来ます。




【旋律長音階とリディアン7thスケール】



Bメロの後半、

47-48小節目
で使われている音を
整理して
音階で並べると

F-dur
旋律長音階の下行形

もしくは

E♭から始まる
リディアン7thスケール

音階となります。



リディアン7thスケール

フワフワと宙に浮いた感じで
少し不思議な響きのする音階です!





中間部最後の2小節では

同主短調
f-mollからの
借用和音である

Ⅶ♭7の和音
から

主調
Ⅰの和音
へ続き

再現部
Aメロに戻ります。



【終結部/ 裏コードとリディアン7thスケール】


Aメロ
3コーラス目後半部分

前の2コーラスと比べて
盛り上がりを見せて

66-67小節目では

同主短調
f-mollからの
借用和音

Ⅵ♭-Ⅶ♭
から

主調
Ⅰ(主和音)
へと進み

後奏へと続きます。




後奏の後半部分、
70-71小節目では

ヘミオラで3拍子になったあと、

最期の2つの和音は

ドッペルドミナントである
G7
裏コード

D♭7を使って


D♭7ーF

というコード進行になっています。






D♭7
のコードの部分ですが、

右手の音に
”G”音
11thとして使われていて

ここで使われている音を
音階に直すと

リディアン7thスケール

という音階になります。





【後記】


全体を通して

”空の端っこ”

和音を分析してきましたが

この曲では

・テンションノート
・ペダルトーン
・裏コード
・クリシェ
・リディアン7thスケール

等と

ジャズのイディオム
かなりふんだんに盛り込まれています。

作曲者の信長氏は
恐らく
ジャズ理論に熟達されているのでは、
と拝察致します。



そして

「こういった分析が 全て演奏に生かされるのか?」


といった疑問には

必ずしも
全面的に
「Yes」
とは言い切れませんが、

作曲者が
どういう思いで
楽曲を組み立てて作曲しているのか?

楽曲の構造の中で
演奏者が
何を大切に表現したらいいのか?

上の2つを踏まえた上で
自分の感性で
どう表現するのか?

といった疑問を
解決する
大きな手掛かりとはなる事は
確かでしょう。



最後まで読んで下さって
ありがとうございました!

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